従業員が楽しみながら利用し、互いに感謝を伝えられる仕組み「社内通貨」。アプリやシステムなどを活用して、近年さまざまな業界で導入が広がっています。
現在、制度の採用を検討されている方も多いと思いますが、気になるのは「社内通貨は法律上、課税対象になるのか?」という点ではないでしょうか。
本記事ではその疑問を解消するほか、社内通貨のメリット・デメリット、失敗しないためのポイント、導入事例などをご紹介します。
社内通貨とは?
社内通貨は、企業が独自に発行し、社内限定で使用できる通貨のことです。紙幣や硬貨といった物理的なお金ではなく、ツール上でやり取りする社内ポイントを採用しているケースが多く見られます。
他の従業員のサポートや良い取り組みを行なった時に従業員同士で送り合ったり、成果を上げた時に企業からインセンティブとして送られたりすることで、社内通貨がやり取りされます。
貯まった社内通貨の使途は、企業が設定した商品への交換やボーナスへの反映などさまざまです。
2005年頃から導入され始めた文化で、近年では社内SNSやサンクスカードツールにも社内通貨が取り入れられています。通常の給与と異なるため、福利厚生としても利用できるのが特長です。
社内通貨の機能・仕組み
社内通貨の活用シーンとしては前述の通り、「目標達成した人や活躍が目覚ましい人に企業がインセンティブとして送る」と「感謝や称賛の証として従業員同士で送り合う」の大きく2種類あります。
従業員同士がやり取りする場合には、少額の報酬を送り合う仕組み「ピアボーナス」として送ったり、サンクスカードツールの中で「ありがとう」のメッセージとともに一定額の社内通貨を送ったりします。逆に言えば、自分がチームに貢献し、誰かの役に立った場合に社内通貨を受け取れるということです。
社内通貨が一定額まで貯まると、企業が設定した商品への交換や書籍購入費・社割などに利用でき、企業によっては受け取った社内通貨の額が賞与査定に反映されます。
自身の活躍や取り組みが毎月の給与とは異なる形で認められるため、モチベーションアップにつながるとともに、従業員同士が感謝を伝え合うきっかけとして機能しています。
社内通貨を導入するメリット
従業員同士で社内通貨を送り合うことで、ポジティブな組織風土づくりや、従業員の士気を高める効果が期待できます。
称賛文化の醸成
普段仕事をする中で、助けてもらった時には「ありがとう」と伝え、「いいな」と思う言動に対しては褒めることを意識している人もいるでしょう。
しかし言葉で伝えるだけでなく、報酬という形に示すことで、相手の活躍や頑張りを可視化でき、気持ちもよりダイレクトに相手に伝えられます。
さらに、感謝や称賛を相手に伝えるという仕組みがあることで、褒め合うことが習慣化され、一緒に働く仲間の良いところに気付く感度も高くなるでしょう。
コミュニケーションの活性化
働き方や価値観の多様化によって、かつてのような飲み会の場でのコミュニケーションは減少しています。近年は特にテレワークの導入により、さらにコミュニケーションが希薄になったと危惧している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
社内通貨の制度は、従業員間に自然なコミュニケーションを生み出すことが可能です。社内SNSやサンクスカードで社内通貨を取り入れれば、物理的な距離がある支社や支店のメンバーとも気軽にやり取りすることができます。
モチベーションの向上
売上に直結する部門や、リーダーシップを発揮する人は何かと注目されることが多いため、成果にも注目が集まる傾向にあります。しかし、組織を円滑に運営していくためには、バックオフィス業務も不可欠であり、チーム単位で見ればサポートの役割で大きな貢献をしている従業員もいます。「ありがとう」や「すごいね」「助かった」の気持ちを社内通貨に込めて送ることで、そういった縁の下の力持ちにもスポットライトを当てることができます。仕事の苦楽をともにしている仲間から評価されることは、非常に大きなモチベーションとなるでしょう。
経営理念や行動指針の浸透
社内通貨は企業のビジョン・ミッションの浸透に役立てることもできます。
従業員が社内通貨を送る際「企業理念や行動指針を体現している人に社内通貨を送る」というルールを設けることで、一人ひとりが理念や行動指針を意識するだけでなく、社内通貨を受け取った従業員も「この行動は理念に沿っているのだ」と認識できるでしょう。
社内通貨のツールによっては、経営理念や行動指針の浸透が仕組みとして付加されているものがあるため、組織課題を感じている方はぜひそういった観点で検討されてみてはいかがでしょうか。
離職の低下
社内通貨によって称賛し合うことが習慣となると、モチベーションの向上や、良好な人間関係の構築が期待できます。
前向きな社風や風通しの良い環境下では、心的ストレスが小さい状態で働くことができるため、離職の原因が少なくなり、結果として離職率を下げることにつながります。
低い離職率は「働きやすい職場」として企業イメージをアップさせるため、優秀な人材からの応募といった採用面でもメリットをもたらします。
社内通貨を導入するデメリット
社内通貨を始めるうえで、コストや社内浸透は避けて通れない課題です。しかしデメリットを理解しておくことで、導入後の失敗を防ぐことができます。
運用コストがかかる
社内通貨は、利便性の理由から物理的な紙幣や硬貨よりもポイント形式であることが多く、アプリやシステム上でやり取りされることが一般的です。そのため、社内通貨を導入するには、ツールの導入費や月々の管理費といったコストがかかります。
貯まった社内通貨を商品に交換するのであれば、商品購入費や交換にかかる手数料なども発生し、制度に関わるすべての費用を企業でまかなう必要があります。
したがって、導入の際は初期費用・ランニングコストを合わせた運用コストをあらかじめ見積もったうえで、現状の組織課題と照らし合わせながら検討することがおすすめです。
形骸化する可能性がある
新しい制度を導入する際は必ずと言って良いほど、「使われないリスク」が懸念事項となります。社内通貨を導入したとしても一部の従業員にしか活用されなければ、本来の目的である組織課題の解決に結びつかず、運用コストだけがかかってしまいます。
また、社内通貨の性質上、自分が積極的に活用したとしても、周りから社内通貨を送られなければ、自分自身の社内通貨は貯まらずメリットを実感しづらいという側面があります。そのため、活用が一部の従業員に偏ることないよう、組織全体に対して継続的に活用を促すことが大切です。
社内通貨は課税対象か?
社内通貨を取り入れるうえで、重要な問題となるのが「社内通貨は課税対象か否か」ではないでしょうか。これは社内通貨が福利厚生の扱いとなるか、インセンティブの扱いとなるかによって異なります。
福利厚生として扱うのであれば非課税になるケースが多いですが、福利厚生は「条件を満たせば全従業員が同じ待遇を受けられること」が前提です。そのため、契約社員や派遣社員、パート、アルバイトなどを含めた全従業員が社内通貨の利用対象であることが求められます。加えて、一般的に見て高額すぎない金額であることがポイントです。
一方、社内通貨を現金や現金と同等のものに換金する場合にはインセンティブとして扱われ、課税対象となるケースがあります。具体的には、社内通貨で貯まった額をそのまま給与やボーナスとして支払ったり、商品券やレジャー施設のチケットなどに交換したりした場合にはインセンティブとしてみなされます。
せっかくならば、自社商品やサービスに絡めたものと交換したいと考える企業もいるでしょう。課税対象かどうか迷う場合には、国税庁のホームページを確認したり、税理士や税務署に相談したりすることをおすすめします。
社内通貨制度を導入する際のポイント
ここからは、社内通貨の失敗を防ぐために抑えておくべき4つのポイントを解説します。
導入目的を明確にする
まずは、なぜ自社に社内通貨を導入する必要があるかを整理します。「称賛し合うことを企業文化にしたい」「社内コミュニケーションを活性化させたい」など、社内通貨を通してどのような組織課題を解決したいかを明確にしましょう。
導入目的が曖昧だと、社内に浸透しないまま次第に活用されなくなったり、社内通貨を貯めることが目的となり本来の意図とは違った活用がなされてしまったりすることがあります。従業員にも導入目的を周知することで、一人ひとりに目的に沿った活用を促すことができます。
導入目的が明確になると、社内通貨の運用方法やルールも自ずと定まってくるため、一貫して目的に沿った制度設計が可能になります。
運用方法・ルールを決める
導入目的に合わせて、社内通貨を送る場面や、社内通貨を送る回数・金額の上限など細かいルールを決定します。例えば、称賛文化を根付かせたい場合には「他のメンバーの素晴らしい行動を見かけた時に社内通貨を送る」、企業理念を浸透させたい場合には「企業理念や行動指針に則った行動をしている人に社内通貨を送る」といったルールが考えられます。
また、社内通貨のやり取りが活発になるほどコストは青天井になるため、必ず送る回数や金額の上限を設定しましょう。
さらに、形骸化しない仕組みを事前に整えておくことも大切です。多くの人から社内通貨を受け取っている人や、積極的に社内通貨を送っている人を表彰する制度を設けたり、サンクスカードと絡めて運用したりと、社内通貨を利用する動機付けを行ないましょう。
使い道を決める
企業によっては自社商品やサービスに交換するケースもありますが、例えばコミュニケーションに課題を感じている組織であれば「チームのメンバーと一緒に使えるランチ券」といったように、導入目的に沿った使い道を設定することも可能です。
また、従業員のモチベーションを上げるという観点から、給与やボーナスに反映するのも1つの手です。社内通貨で貯まった金額を直接給与に上乗せする以外にも、貯まった金額を賞与査定の基準として反映する方法もあります。
他にも、社会貢献の一環として、貯まった金額を寄付するのも良いでしょう。寄付先をいくつか用意しておき、従業員自身が選べるようにすることで、自らの意思で社会貢献しているという実感を得ることができます。
自社に合ったツールを導入する
社内通貨制度を多くの従業員に活用してもらい、企業文化として浸透させるうえで、ツール選びは非常に重要です。
コミュニケーションの活性化が導入目的であれば、社内通貨とともにメッセージを送ることができるもの、モチベーションの向上が目的の場合は、称賛されたメッセージを他の従業員も閲覧できるものなど、自社の導入目的に合った使い方ができるツールを選びましょう。
ツール導入の際は、全従業員が使いやすいか、トライアルして確認することがおすすめです。直感的に使えるUI・UXであるかはもちろんのこと、職種によっては外出先から利用することもあるため、スマホでも使いやすいかをチェックしておきましょう。
社内通貨の運用事例3社
社内通貨は社内独自のものであることから、社風や価値観を反映した運用を行なっている企業もあります。
株式会社DISCO
半導体製造装置や精密加工装置・加工ツールなどの製品を扱うメーカー、株式会社DISCOでは、「Will会計」というユニークな管理会計制度を設けています。
例えば何か仕事をすれば、その仕事に対して対価(Will)を受け取ることができます。一方で、自分の人件費や備品使用料、他のメンバーに仕事を依頼した場合には依頼費として支出が発生し、これらの収支を従業員一人ひとりが自分で管理するという仕組みです。
「社内オークション制度」では、「このくらいの対価(Will)で仕事を依頼したい」という出品者と、「このくらいの対価でこの仕事を受注したい」という希望者の合意によって仕事が決まるため、自分で仕事を選べるという側面もあります。
Willが「意志」を意味する言葉である通り、Will会計によって自分自身の働き方やキャリアを設計できるのが特長です。
参考:社内制度 | 株式会社ディスコ採用サイト (disco.co.jp)
株式会社オロ
クラウドソリューション事業やマーケティングコミュニケーション事業を手掛ける株式会社オロでは、感謝を伝える仕組みとして「Oron」と呼ばれる制度を導入しています。
毎月企業から各従業員に3Oron支給され、支給されたOronは専用のツールを介して、メッセージと一緒に他の従業員に送ることができるという仕組みです。その月にお世話になった人や頑張っている人はもちろん、お誕生日や結婚などのお祝いとしても送ることができます。
元々はコミュニケーション不足の懸念から導入された制度ですが、改まって感謝を伝えることによって自然な形でコミュニケーションが生まれ、従業員同士の人間関係の構築の一助になっているようです。
参考:"感謝"の気持ちをカタチにして相手に伝える 社内 Greeting point 制度「Oron」 | oRo’s Blog (wantedly.com)
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まとめ
社内通貨は、従業員同士の称賛によってポジティブな組織文化を醸成するだけでなく、モチベーションアップや離職率の低減など、さまざまな組織課題の解決につながる制度です。社内通貨を送り合い、コミュニケーションの機会が増えることで、組織としての一体感を生むことも期待できます。