新しい人事評価の方法として近年脚光を浴びているピアボーナス。日々の業務の中での良い取り組みや言動などを従業員同士で感謝・称賛し、メッセージと少額の報酬を贈り合う仕組みです。
Googleが採用したことで注目度が高まり、導入企業が増えつつありますが、「社内で上手く浸透させられなかった」「ツール選びに失敗した」というお声も耳にします。
本記事ではピアボーナスを導入するメリット・デメリットのほか、活用に成功している企業事例をご紹介します。
ピアボーナスとは?
ピアボーナスとは、「仲間」「同僚」を意味するPeer(ピア)と、「報酬」を意味するBonus(ボーナス)が組み合わさってできた造語です。
通常の人事評価では、企業や上司が従業員・部下の成果を一方的に評価しますが、ピアボーナスは従業員同士がお互いに評価し合い、メッセージと少額の報酬を贈る制度です。直接業績につながるような仕事の成果だけではなく、チームの内のサポートや助け合いなど、メンバー同士だからこそ見える活躍に対しても評価できるのが特長です。
また、少額の報酬といっても直接現金をやり取りするのではなく、社内SNSとは違うアプリやシステムを通じてポイントを贈り合い、貯まったポイントを現金や商品などに交換することが一般的です。
ピアボーナスが注目されている背景
ピアボーナスは、Googleが従業員を評価する仕組みの1つとして導入したのがきっかけで広く知られるようになった制度です。目に見える成果だけでなく、バックオフィス部門やサポートの役回りが得意なメンバーなど、従業員全員にスポットライトを当てることができます。
上司からの評価はもちろん大切ですが、一緒に働く仲間から称賛・承認されることはモチベーションを向上させ、生産性を高めます。また、ピアボーナスを贈る際にメッセージのやり取りが発生するため、自然とコミュニケーションを増やせることもメリットです。
「従業員のモチベーションアップ」「生産性の向上」「社内のコミュニケーション活性化」の3つの効果をもたらすことによって働きやすい職場環境を体現できるため、結果として離職率の低下も期待できます。
ピアボーナスを導入する4つのメリット
前述のとおり、ピアボーナスはモチベーションアップやコミュニケーション活性化、生産性の向上など、職場環境にさまざまな効果をもたらします。
コミュニケーションが活性化する
ピアボーナスを贈る際、メッセージのやり取りが行なわれるため自ずとコミュニケーションの機会は増加します。贈る際は称賛・感謝の気持ちを記したメッセージを作成し、場合によっては直接手渡しでメッセージを贈ります。受け取った側は「ありがとうございます」という返信や声掛けを行なうため、一方通行のコミュニケーションになりにくく、そこから新たな会話が始まることもあるでしょう。
また、ピアボーナスは自部門のみならず、全社の従業員に贈れる仕組みが一般的です。部署の垣根を越えて協力し合い、互いの活躍に対して褒め合ったり感謝し合ったりというポジティブなコミュニケーションが生まれます。感謝や称賛の文化が根付くことで社内の雰囲気は良くなり、従業員のメンタルや仕事の成果にもプラスの影響をもたらすでしょう。
従業員エンゲージメントを高める
上司一人では部下の仕事ぶりを完璧に把握することは難しく、どうしても売上や生産性など定量的な指標で評価せざるを得ない場面があります。
しかしチームで働く以上、数字に直結しない貢献や”縁の下の力持ち”のようなサポートは不可欠であり、そのような役割を得意とするメンバーも適切に評価されてしかるべきです。
その点ピアボーナス制度では、従業員全員が評価者となるため、多面的な評価が可能になります。日々の些細な取り組みや行動がメンバーからの評価につながるため、仕事のモチベーションとなるだけでなく、自身の働きを適切に評価してくれる環境が愛社精神を育み、従業員エンゲージメントを高めます。
人材が定着する
ピアボーナスは、優秀な人材の流出を防ぎ定着させる効果も期待できます。
取り組みや行動に対して、チームのメンバーから正当な評価を受けられると、やりがいを感じられるとともに成長実感も得られます。また、メッセ―ジの内容は全従業員が閲覧できる状態であることが多いため、他のメンバーの頑張りや良いところが可視化されます。可視化されることで、今までは知ることができなかったお互いの良い一面を知れ、直接のコミュニケーションはなくとも間接的に相互理解が深まります。
このような職場では、主体性や協調性を持って仕事に取り組む組織風土が醸成されるとともに、離職のリスクを下げることができ人材不足の解消につながります。
称賛文化の醸成に繋がる
誰しも褒められると嬉しく「もっと頑張ろう」「新しいことにもチャレンジしてみよう」と意欲が湧くものです。モチベーションが向上すれば、従業員の成長速度は速くなり、自ら考えて行動するようになります。新たなアイディアやイノベーションが生まれることもあるでしょう。
ピアボーナス制度は報酬自体も励みになりますが、それ以上に、他の従業員から称賛されることが大きな喜びとなりモチベーションにつながります。ピアボーナスを通じて称賛が企業文化として定着すれば、普段のコミュニケーションの中でも自然と互いの良い面を褒め合ったり、感謝したりできるようになるでしょう。
ピアボーナスの導入が失敗する4つの理由
メリットの多いピアボーナスですが、「上手くいかなかった」という声をしばしば耳にするのはなぜでしょうか。ここからは、ピアボーナスのデメリットについて解説します。
お金がかかる
ピアボーナスを採用するうえで企業にとってデメリットとなるのが、金銭面での負担です。従業員同士が贈り合う報酬は企業側の負担となるため、当然のことながらピアボーナスを贈れば贈るほど費用はかさみます。そのほか、アプリやツールを導入する場合には利用料金がかかり、贈り合った報酬(ポイント)を現金や商品に交換する際の手数料も企業側で負担しなければなりません。
これらは人件費とは別に発生するため、導入したはいいものの、コストの大きさに制度を継続するのが困難になるケースがあります。導入する際は、企業の規模や業績、現在抱えている組織課題などを総合的に判断する必要があります。
導入や運用に手間がかかる
アプリやツールを利用せずにピアボーナス制度を運用する場合、管理に非常に手間がかかることも失敗の一因となります。
ピアボーナスが設定したルールに基づいて活用されているかチェックする、メッセージの内容を全従業員が閲覧できるよう共有方法を工夫するなど、ピアボーナスによって本来の業務以外の手間が増加してしまいます。また報酬の管理も煩雑になり、経理部門をはじめとするさまざまな部門の業務量を増やしてしまいかねません。
一方、アプリやツールを導入する場合にも、自社に合わない機能が多く搭載されていたり、贈るまでの工程数が多いシステムだったりすると、使いづらさから社内に浸透しないケースがあるため注意が必要です。
本業に支障が出る
本来ピアボーナスは、従業員の日頃の活躍を多面的に評価し、良い取り組みや行動を褒め合うことで、プラスの効果を生む仕組みです。そのため、ボーナスをもらうために行動するのではなく、行動した結果、誰かの役に立ってボーナスにつながるという形が理想的です。
しかし、ボーナスをもらうことが優先となるあまり、サポート役ばかりを買って出て自分自身の業務が疎かになるといった事態に陥るケースがあります。ピアボーナスは社内に良い風を吹かせるものであるため、本業に支障が出ては本末転倒。本業に差しさわりのない方法やルール設定で運用していく必要があります。
人間関係の悪化
誰に誰がピアボーナスを贈ったかの履歴や、メッセージ内容は社内で共有されることが一般的です。そのため「同じ仕事をしているのに、○○さんしか評価されていない」「自分は良く思われていないのでは」と不信感や不満を抱く原因になることがあります。
日頃コミュニケーションが希薄で信頼関係が構築しきれていない職場の場合には特にリスクが高く、せっかくの制度がプラスに機能せず、人間関係の悪化につながってしまいます。
ピアボーナスは個人に対する好き・嫌いで贈られるものではなく、仕事ぶりに対する評価であることを従業員に周知徹底したうえで、メッセージを書く際には「どのような取り組み・行動を良いと思ったか、感謝しているか」を具体的に記載するといった運用上の工夫が必要です。
ピアボーナスを成功させるための6つのポイント
前述の失敗するケースを踏まえ、ピアボーナスを成功させるために押さえるべき6つのポイントをご紹介していきます。
導入や運用に手間がかからないアプリ・ツールを選ぶ
従業員が活発に利用し合い、管理部門が負担なく管理していくうえで、導入や運用に手間がかからないアプリ・ツールを選ぶことは非常に重要です。
ピアボーナスを贈るまでの工程は煩雑ではないか、直感的に操作できるUIであるか、管理者はコスト計算を簡単にできるかなど、贈る側・受け取る側・管理者側の3者にとって手間のかからないものを選びましょう。
また、営業部門の従業員が多い企業や、リモートワークを推奨している企業の場合には、モバイル対応であるかどうかも確認すべき観点でしょう。自社の状況や働き方にマッチしたアプリ・ツールを選び、持続的な運用ができる状態を作ることがポイントです。
導入促進チームをつくる
どのような新しい制度でも、初めは活用を躊躇し、周りの様子を伺ってしまうものです。その状態のまま時間が過ぎてしまうと制度が形骸化してしまうため、ピアボーナスを導入する時には各部門から1人ずつメンバーを選出して、導入促進チームを結成することをおすすめします。
導入促進チームのメンバーが率先してピアボーナスを贈ると、贈られた側は勝手を理解でき活用のハードルが低くなります。
また、社内の良い活用事例を導入促進チーム内で収集し、それを各部門に持ち帰って共有するのも効果的な方法です。導入促進メンバーが積極的に発信し、気兼ねなく利用できる環境を整えることで制度が浸透しやすくなります。
役職者が積極的に参加する
導入促進チームのメンバーに加え、管理職や上層部などの役職者が積極的に活用することもピアボーナスを成功に導くポイントです。
企業文化や社風の形成において、役職者の行動は非常に大きな影響を及ぼします。企業のトップが感謝や称賛・評価を積極的に行なうことによって、企業文化としてこれらが早く広く、そして深く浸透します。
役職者の活用を「企業全体の雰囲気づくり」、導入促進チームの活用促進を「現場への文化の定着」という役割分担で、上層部と現場レベル双方から活用を促せると良いでしょう。
運用を工夫する
新しい制度であるからこそ、初めて利用するときには何かきっかけが必要です。社内イベントと絡めて運用することで、そのきっかけ作りを行なうことができます。
例えば成果事例発表会といった全社イベントを行なう際は、発表者はもちろん、イベントの運営を担当したメンバーや当日イベントを盛り上げたメンバーなど、さまざまな従業員が脚光を浴び、ピアボーナスを贈る理由ができます。
そのほか、売上目標の達成時にチーム内で贈り合ったり、新入社員研修で頑張っている新入社員に先輩社員からピアボーナスを贈ったりすると、士気を高めながら自然とピアボーナスを浸透させることができます。
良い投稿を社内で広げる
感謝や称賛の気持ちが大きければ大きいほど「この人の素晴らしい活躍を他の従業員にも知らせたい」と思ったり、仕事に前向きに取り組むからこそ「自分の頑張りをもっと知ってほしい」と感じたりすることがあるでしょう。
ピアボーナス制度で贈ったメッセージの内容は全従業員が自由に閲覧できるようになっていることが多いため、良い投稿については社内で広げると職場全体が活気づきます。
コメントや「いいね」などでリアクションしたり、社内報や社内掲示板で取り上げたりすることで、従業員の活躍が広く知れ渡り他の従業員からも称賛される機会が増え、ピアボーナスを受け取った従業員の満足度も一層高まります。
導入目的を明確にする
ピアボーナス制度はあくまで組織課題を解決するための手段であり、導入がゴールではありません。
組織の現状を客観的に捉え、ピアボーナスによってどのような姿を目指していくか目的を事前に明確にしておくことで、導入したこと自体に満足せず、その後も試行錯誤を繰り返しながら目標に向かって運用を行なうことができます。
また、「社内のコミュニケーションを活性化させるため」「称賛文化を根付かせポジティブな組織風土を作るため」など目的が明確になっていることで、導入促進メンバーや役職者の理解や後押しが得られ、従業員にも制度として受け入れられやすいといったメリットもあります。
ピアボーナスアプリ・ツールの比較のポイント
ピアボーナスのアプリやツールは多種多様なため、比較検討する際には「自社にとって使いやすいか」を重視して選ぶことがポイントです。
従業員が使いこなせるか
アプリやツールでピアボーナスを導入する場合、通常はパソコンやスマートフォンを使用することになります。企業には幅広い年齢、さまざまなバックグランドを持った従業員が属しているため、デジタル機器に苦手意識のある従業員もいるでしょう。
アプリ・ツールを検討するうえで、全従業員が簡単に使いこなせるシステムであることは重要なポイントとなります。「直観的に使えるUIであるか」「複雑な操作はないか」「貯まったポイントはスムーズに現金・商品に交換できるか」などを確認しましょう。
さらに、外回りの多い従業員を多く抱える企業の場合、パソコンからしかアクセスできないツールであればピアボーナスを贈るハードルは高くなるため、スマホからアクセスできることが必須条件となります。
従業員のスキル面と自社の働き方、両方の観点から従業員が使いやすいアプリ・ツールを選ぶことが大切です。
サポートの手厚さ
意外と見落としがちなのが、サポートの手厚さです。ピアボーナスは導入して終わりではなく、導入はあくまでスタートです。運用を始めてから従業員から予期せぬ質問が届いたり、運用を改善するために設定変更が必要になったりすることも考えられます。そのような時に、社内で解決方法を模索し対処していては、本業に支障をきたしかねません。
また、長期間にわたって利用する際は、その間にアプリ・ツールのアップデートが起こることもあります。システム上で勝手にアップデートされることもあれば、導入企業側で作業が必要な場合もあるでしょう。
導入後もその都度、疑問や設定変更、アップデートにきめ細かく対応してもらえることで、手間を最小限に抑えて運用することができます。安心して利用することができる環境を整えておくことは、運用失敗のリスクを下げることにつながります。
自社の目的に合う運用が可能か
公平性を保ち目的に沿った運用をしていくうえでは、さまざまなルール設定が必要です。
例えば「無尽蔵にピアボーナスを活用されては経営状況を圧迫するため、1人あたりの贈る上限回数や上限額を決める」「通常の人事評価とは区別して考えるため、直属の上司から部下へのピアボーナスは禁止とする」「従業員が相互にピアボーナスを贈り合い、目的から外れた使い方を防ぐために、贈ってくれた相手には受け取りから1か月間ピアボーナスを贈れない設定にする」などのルール設定が考えられます。
これらを人の目で管理していくには限界があるため、システム上であらかじめ仕様を設定しておくことがおすすめです。自社の目的に合う設定やカスタマイズが可能か、アプリ・ルールを選ぶうえであらかじめ確認しておきましょう。
ピアボーナス導入事例
ここからは、ピアボーナスを上手く活用している企業の事例をご紹介します。導入や運用にお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
Google LLC
インターネット関連事業を世界に展開する、言わずと知れたGoogle。チームの心理的安全性を高め、より革新的なアイディアを生むためにピアボーナスが導入されました。
運用上のルールも細かく設定されており、「直属の上司・部下にピアボーナスを贈ることはできない」「同じメンバーに対しては、ある一定期間ピアボーナスを贈れない」「ピアボーナスを贈ってくれたメンバーに対しても、ある一定期間ピアボーナスを贈ることはできない」のように、公平性を保って運用できるよう工夫されています。
贈られる金額としては少額ですが、ピアボーナスを贈られることでチームのメンバーに評価されていると実感でき、継続的に高いパフォーマンスを発揮するためのモチベーションとなっています。
株式会社じげん
数多くのWEBサイト・メディアを運営する株式会社じげんでは、「GAT」という独自の社内通貨制度を採用しています。
ピアボーナスと同じく感謝の気持ちを贈ることを目的とした制度で、通貨兼メッセージカードである「GAT」に手書きでメッセージを記入し、それをお世話になったメンバーに手渡す仕組みです。感謝のメッセージが書かれたGATは1枚1,000GAT(1,000円)として、商品やAmazonポイントなどに交換できます。
GATカードは全従業員に毎月1枚だけ配られるため、贈る側も贈られる側も価値を感じられ、モチベーションアップに大きく寄与します。さらに、直接手渡しでメッセージを渡すため、コミュニケーションの活性化にもつながっています。
まとめ
モチベーションアップやコミュニケーションの活性化など、企業や従業員にとって数多くのメリットをもたらすピアボーナス。導入をゴールにせず、自社に合った方法とアプリ・ツールを選んで運用していくことが大切です。
また、コミュニケーションの活性化に一層力を入れたい場合には、ピアボーナスとサンクスカードを組み合わせて運用することもおすすめです。