コラム

2024.08.01
2024.08.01

リフレクションとは?意味や人材育成における重要性と具体的なやり方を簡単に解説

過去の経験から、自分の行動や思考を振り返るリフレクション。経験によって得た知識や知見を自身に定着させることで、成長スピードを早められます。
「振り返り」という行為自体は身近でシンプルなため、一見簡単なようですが、誤ったやり方や使い方をするとネガティブに作用することもあり注意が必要です。
本記事ではリフレクションの具体的な方法もご紹介しますので、人材育成にお悩みの方は、ぜひお役立てください。
 

リフレクションとは?


 
リフレクション(reflection)は日本語に訳すと、反射・内省を意味します。ビジネスでは、仕事における自身の考え方や言動、経験を振り返ることを指します。
マサチューセッツ工科大学の元教授で哲学者のドナルド・ショーン氏によって注目され、現在では人材育成の効果的な手法として活用されています。「自分自身で考え、気付くこと」がリフレクションの重要なポイントです。
 

反省との違い

リフレクションと似て非なるのが反省です。いずれも過去の言動や思考を省みる行為ですが、振り返りの観点と目的が異なります。
反省は「上手くいかなかった出来事」に焦点を当て、自身の過ちを認めて向き合うことです。同じ失敗を繰り返さないよう改善策を考えることが目的となります。
一方、リフレクションは「上手くいった出来事」「上手くいかなかった出来事」の両方に焦点を当て、良かった点・悪かった点のどちらも振り返るという特徴があります。感情的に振り返るのではなく客観的かつ前向きに「より良くするための方法」を考えるのがリフレクションです。
 

フィードバックとの違い

フィードバックとリフレクションも、誰が主体的に振り返りを行なうかという点で異なります。
フィードバックは、自分の行動に対して上司や他者が振り返りを行なうことを指します。他者が行動や結果の良し悪しを判断して評価をつけ、場合によっては、具体的な改善策のアドバイスをする場合もあるでしょう。
しかしリフレクションは、自分の行動を自分自身で振り返る行為です。「なぜ上手く行ったのか」「なぜ上手く行かなかったのか」を自分で考え、気付きを得るというプロセスによって、経験や教訓が自分のものとして身につき、次の機会や他の場面に活かすことができます。
 

リフレクションの重要性

 
リフレクションが人材育成の場面で注目を集めているのは、従業員の成長に直結するためです。リフレクションでは過去の経験を「経験しっぱなし」にせず、客観的に出来事を振り返ります。良かった点・悪かった点を整理し、それがなぜ起こったか理由まで掘り下げることで、再現性を高めます。
また、過去の経験を振り返ることによって、新たな気付きを得ることもあるでしょう。冷静な視点で出来事を見つめ直すことによって、渦中にいるときには気付かなかった改善点やアイディアが見えてくることもあります。それらが業務の効率化やイノベーションの促進につながり、従業員の成長や自信になるでしょう。
さらに、リフレクションによって「自ら考えて行動する力」「物事を俯瞰し分析する力」「目標に向かって改善を繰り返しながら進んでいく力」を養うことができます。これらはチームや組織のリーダーに求められる大切なスキルです。リフレクションを行なうことは、副次的にリーダーとしての素養を培うことにもなります。
 

リフレクションを導入するメリット・効果

 
さまざまなメリットがあるリフレクションですが、ここでは従業員がリフレクションを行なうメリットや成果にフォーカスして解説します
 

人材の教育ができる

「振り返り」と「良い行動・思考の継続、課題のある行動・思考の改善」というサイクルを日常的に繰り返すことで、経験や知見を積み上げられるのはもちろん、自ら考えて行動する主体性を養うことができます。
またリフレクションの過程では、リーダーに求められる「客観的に物事を見る力」「高みに向かって自らPDCAサイクルを回す力」などを身につけられるので、リーダー育成の一助としての効果も発揮します。
 

従業員の強みを引き出せる

過去の成功体験を振り返ることによって、従業員自身が自分の強みを認識できるというメリットもあります。
成功体験を振り返る中で、それらに共通するパターンが見えてくるでしょう。成功パターンについて、どのような行動・思考がカギとなったのかを掘り下げることで、自身の強みに気付くことができます。
強みを認識できれば、それを最大限に活かして仕事を進めたり、強みを活かせそうな仕事に積極的に手を挙げたりと個人のパフォーマンスを高められるでしょう。
 

組織が成長する

リフレクションによって自身の行動や思考を振り返る中で、おのずと足りない知識やスキルとも向き合うことになります。それらを補い、改善するために、従業員が主体的に学ぶようになるのもリフレクションの効果の1つです。学ぶことが習慣化されると、それまで以上に幅広い知識で課題解決に取り組めるようになり、組織の成長を加速させます。
また、一人ひとりのスキルアップによって、作業時間が短縮できたり、より効率的な方法に変更したりと生産性の向上も期待できます。
 

リフレクションを導入する際のプロセス

 
リフレクションには数多くのフレームワークがありますが、それらに共通する3つのステップがあります。
 

1.起こった出来事を振り返る

まずは起こった出来事を客観的に振り返ることから始めます。振り返る際は、主観や感情を交えないことがポイントです。例えば「○○さんにA社の案件について話しかけた」など、誰の目にも同じように映る客観的事実のみを振り返ります。
 

2.経験した出来事の因果関係を考える

次に、起こった出来事の因果関係を振り返ります。「いつも親身に話を聴いてくれる○○さんが少し素っ気ない対応だったが、なぜだろうか」といったように、結果とその背景にある理由を考察します。
 

3.自分自身の行動を振り返る

上記の1と2で振り返った内容をもとに、その時の自分の言動は適切だったか、より円滑に仕事を進めるうえで改善すべきことはないかを考えます。例えば「話しかけるタイミングは適切だったか」「話す内容を整理してから話しかけたか」など、自分の行動に疑問を投げかけながら振り返ることが大切です。
 

リフレクションのフレームワーク

 
数あるリフレクションのフレームワークの中から、今回は7つについて具体的な方法をご紹介します。
 

KPT法

KPT法とはKeep、Problem、Tryの3つの要素から振り返りを行なう、比較的認知度の高いリフレクション方法です。
Keepでは「今現在上手くいっていて、今後も継続すべきこと」を、Problemでは「今現在上手くいっておらず、改善すべき問題点」を、TryはKeepとProblemの内容を受けて「実行すべき施策」を整理します。
ただ闇雲に振り返るのではなく、現状の整理と次の行動の決定に分けて考えることで、実態に沿った適切な振り返りを行なうことが可能です。また、短いサイクルで振り返り・改善・実行を繰り返すため、目標に向かって行なうべきタスクが明確になり、着実にステップアップできます。そのため、特にチームやプロジェクトのリフレクションとして有効です。
 

YWT法

YWT法は「やったこと」「わかったこと」「つぎにすること」の頭文字を取って名付けられた振り返り手法です。KPT法と似ているように見えますが、異なる点が大きく2つあります。
1つは「何を起点に振り返るか」です。KPT法では「上手くいっていることは何か」「問題点は何か」という現在の状態から振り返りを始めますが、YWT法では「自分がやったことは何か」「わかったことは何か」のように、自分の行動を起点に振り返りを行ないます。
そしてもう1つは、効果を発揮するシーンです。KPT法は目標達成のための手段として高い効果を発揮するため、チームのリフレクションとして有効です。一方、YWT法は自分の行動を軸に振り返るので、個人の成長のためのリフレクションに向いています。YWT法を行なうことで、自身の強みや成功パターンに気付き、新たな学びを得ることもあります。
 

KDA法

KDA法は、Keep、Discard、Addの3つの観点から振り返る手法です。
Keepは「今現在上手くいっていて、今後も継続すべきこと」を、Discardは「今現在実施しているが、やめること」を、Addは「今後新たに実施すること」を整理します。
KDA法も一見KPT法とよく似ており、実際Keepの観点は共通していますが、Discard「やめること」を明確にする点で大きく異なります。自分自身の仕事の進め方や思考はもちろんのこと、チーム全体で重複している仕事はないか、形骸化している会議はないかなど多角的に「やめること」を洗い出すのがポイントです。やめることが決まると、業務をスリム化できるだけでなく、Add「今後新たに実施すること」でより良い施策を取り入れる余裕が生まれます。
業務量が多く支障をきたしている場合や、長年同じ工程で仕事をしており見直しをしていない場合などは、KDA法がおすすめです。
 

経験学習モデル

アメリカの組織行動学者ディビット・コルブが提唱したモデルで、経験から気付きを得て他の場面に応用する方法を体系化したものです。「経験」「省察」「概念化」「実践」の4つのステップに分かれています。
1つめのステップ「経験」は、文字通り経験することを指しますが、経験するうえで大切なのは主体的に考えて動くことです。例えば仕事であれば、目的は何か、どのような進め方が適切かなどを自ら考えて行動することが挙げられます。
2つめの「省察」では経験した出来事を振り返り、なぜそのような結果が発生したのか、どのようにすればより良い仕事ができたのかなど、自分の行動を深堀りして考えます。この省察のプロセスがリフレクションとなります。
3つめの「概念化」では、省察して得た気付きや学びを、他の場面でも活かすため概念化・抽象化します。例えば「営業で、競合のA社より勝っている点をプレゼンしたら受注できた」という場合、「競合他社に対する優位性は、営業において強い武器になる」のように概念化できます。
4つめの「実践」では、概念化した気付きを他の場面で実行し、自身のスキルとして定着させます。
 

シングルループ学習

アメリカの経済学者クリス・アージリスが提唱したモデルで、結果から課題を発見し、それを改善して次の行動に移すサイクルのことです。有名なものにPDCAサイクルがあります。行動から改善、そして次の行動までが1つのサイクル(輪)としてつながっているため、シングルループ学習といわれています。
シングルループ学習の特徴は、行動したその結果に対して振り返りを行ない、改善策を講じていくことです。例えば「営業の受注率が低い」であれば、「営業トークのスキルを磨く」「企画書をブラッシュアップする」などの振り返り、改善策が考えられます。
シングルループ学習では、行動と振り返り、そして改善を繰り返しながら課題を1つ1つクリアしていくことで目標達成に近づいていきます。
 

ダブルループ学習

シングルループ学習と同じ、クリス・アージリスが唱えたリフレクション方法です。行動・振り返り・改善のサイクルを回していくという大枠はシングルループ学習と同じですが、振り返りの範囲が異なります。
シングルループ学習では、行動したその結果に対して振り返りを行ないますが、ダブルループ学習では、そもそもの目的や前提は適切かなど、本質的な部分まで掘り下げて掘り返ります。前述の「営業の受注率が低い」という例でいえば、「受注率を上げるのではなく顧客単価を上げる方が良いのでは」「営業手法に問題があるのではなく、商品・サービスに課題があるのでは」など、既存の概念にとらわれずに見直します。
固定観念を取り払うために、他者とディスカッション形式でダブルループ学習を行なうのも良いでしょう。自分の経験を他者に語ることで、出来事を客観的に振り返ることができ、より深く顧みることができます。
シングルループ学習とダブルループ学習は、どちらが優れているというものではなく、その場面に応じて、適切な方法を採用しましょう。
 

ジョハリの窓

アメリカの心理学者ジョセフ・ルフト、ハリー・インガムによって提唱された手法です。特に自己理解に有効で、自分を顧みることで強みを認識したり、課題解決に活用したりできます。
ジョハリの窓では、自身の特性を以下のように4つの領域に分類します。
・「開放の窓」…自分も他人も知っている特性
・「盲目の窓」…自分は認識しておらず他者だけが知っている特性
・「秘密の窓」…自分は知っているが他者は知らない特性
・「未知の窓」…自分も他者も知らない特性
チームや組織単位で見れば、一人ひとりの「開放の窓」の領域に分類されるものが多いほど、相互理解やチームワークが高まった状態となるため、チームの現状を知るためにも有効です。
 

リフレクションを実施する際の注意点

 
人材育成において効果的にリフレクションを行なうために、サポート体制や振り返る出来事に注意が必要です。
 

最初は上司がサポートする

過去の経験を振り返ると、どうしても主観的になり、できなかったことや課題に目が行ってしまいがちです。しかし、ネガティブな面ばかりに着目し誤ったリフレクションを行なうと、モチベーションの低下や自信喪失を招くリスクがあります。
部下が客観的かつ前向きに振り返りを行なえるよう、初めは上司のサポートがあると良いでしょう。一緒に事実確認を行ない、抱えている課題について共感しながらも部下自ら改善策を考えられるよう促しましょう。
 

成功も失敗も振り返る

失敗した出来事だけではなく、成功した出来事も振り返りの対象となります。課題や問題点から改善策を考えることももちろん大切ですが、今現在上手くいっていることや強みを認識して、意識的に継続することもリフレクションの目的の1つです。上手くいっていることは概念化することで、多くの場面で活用でき、自身の新たなスキルとなります。
また、リフレクションは前述のとおり反省とは異なるため、失敗した出来事を振り返る際には、悲観的に捉えるのではなく、冷静な視点で見つめるよう意識しましょう。
 

良好な人間関係を保つ

リフレクションは、あくまで自分自身の行動や思考を振り返るものです。振り返る焦点を誤るとリフレクションは上手くいきません。普段の人間関係が良好でない場合には特に、「○○さんが悪い」「○○さんのせいで…」と考えてしまい、他者への不満を募らせる行為になるリスクもあります。他責思考ではなく、自分自身を顧みるためにリフレクションを行なうことが大切です。
また、日々のコミュニケーションを大切にし、良好な人間関係を築いておくことで、他者が自分をどのように見ているか分かるため、「ジョハリの窓」を行なう際にも役立ちます。
 

まとめ

リフレクションには、さまざまなフレームワークがありますが、どのような手法を採用する場合にも必ず「上手くいったこと」「上手くいかなかったこと」の両方を振り返ることが重要です。過去の経験を振り返り気付きや学びを得ることで、成長につながります。
従業員の自主性やリーダー育成、人材育成に課題感をお持ちのチームでは、リフレクションを取り入れてみてはいかがでしょうか。
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